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INTERVIEW

月刊専門料理 1985年4月号「若き料理人に贈る言葉」より

レストランを成立させる要素

石鍋 裕氏(クイーン・アリス オーナーシェフ)
 
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 高校を出て、調理師学校に一年行ってから調理場に入ってくる子たちは夢をめいっぱいふくらませている。ところが、彼らの「レストラン」のイメージには清掃やレジや皿洗いのことは抜け落ちている。
 レストランというものは様々な要素から成り立っているものだ。中でも清掃に関しては「掃除で始まり掃除で終わる」と言ってもいいくらい重要なことなのに、彼らは「これは自分の仕事ではない。いやいやながらやらされているのである」としか思っていないらしい。
 しかし、掃除をしていない席に客を迎えることはできないし、調理場の掃除だって、いやいやのろのろやっていたのでは昼までには三時間しかないのに料理が間にあうはずがない。
 掃除の仕方だって、心構えがなっていない。どうやったら早くきれいになるか、と考えて努力するということがない。それは掃除だけに限らず、ちょっと嫌な仕事をのろのろやってると、ほかの人間が「しょうがねえなあ」と言いつつ手伝ってやる。するともう次からは手伝ってもらえるものだと思ってしまう。しかし嫌な仕事なら早く片付けようとしなければ、進歩は絶対に望めない。
 みんないっしょに同じレベルで低迷しているなんて、そんな無駄なことはない。本人が競争心を持って、つらさを乗り越えて行かない限り、何のためにつらい思いをしているのかわからない。一日一日をダラっとして過ごすなら、こんな店はやめてもっと楽な仕事に行きなさいと言いたいくらいだ。

サービスも料理もお客に押し付けてはダメ

 次に私が「最悪」と思うのは、客に対して「あんた、そんなこと知らないの?」といった態度をとる人間である。フランス料理に関してはまだまだ知らない人が多いのに、傲慢な態度をとるなんて最悪。サービスするときは、自分のいなかのおじいさんが初めてフランス料理を食べに来ていると考えて接するべきだ。
 それは料理にも言えて、私自身ショックを受けたことがあった。あるグルメの会で絶賛を受けた料理を、よくクイーン・アリスに来てくれるフランス料理好きの人に出したら「何だ、こんなしつこいのは食えないよ」と言われたのだ。その料理をわかってもらえると思っていたのに、受け入れられなかったのは衝撃だった。そのとき、大半の人がおいしく感じる料理でなければ、それは料理人の自己満足にすぎないと思ったのだ。
 たとえばアンコウはフランスでは高級魚だからといって、「これはどこどこ地方の何とかという料理です」と『高い金払って食べろ』と押し付けても客には嫌われるだけ。
 でも、私が言っていることは五年のキャリアを積まなければわからないかもしれない。五年たてばわかる。最低、人の三倍働いて当たり前。そして、実際に三倍働かなければ結果は出ない。しかし、のちのちおもしろい人生、良い暮らしを手に入れられるかどうかはそこにかかっているのだ。