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企業の商品開発 おいしい料理、発想の原点
大繁盛店に共通する要点は言うまでもなく「おいしい料理」にある。それは味であり、品質であり、ボリュームであり、何より価格以上の価値を指す。本特集は商品開発に携わる10人のプロフェッショナルに発想の原点を聞いてみた。
 
 

魚屋の商売が我々の基本。絶対的なお値打ちを打ち出す

 1994年5月に前身となる㈲夢笛コーポレーションを設立。串焼き業態「串BAR」を主力に店舗展開を進め、2004年7月に高橋氏が代表取締役社長に就任。以来、マルチブランド体制で積極的に出店を推進。現在は9業態13店を展開する。海鮮居酒屋「魚々屋 むてき」、落ち着いた割烹イメージの「季節料理 夢本陣」、和風居酒屋「夢本陣 なごみ」、海鮮居酒屋「いろはのい」の他、焼肉業態2店を手がけるなど、バラエティに富んだ店舗ラインナップで確かな地歩を築いている。

――御社はマルチブランド体制で意欲的な出店を重ねていますが、まずはその狙いを教えてください。

 私自身はもともと和食の経験が長かったこともあり、やはり「和」の良さを生かした居酒屋業態が強みだと思います。具体的には、割烹テイストを盛り込んだ「季節料理 夢本陣」や町家をリノベーションした和風居酒屋「夢本陣 なごみ」などがそれに当たります。ただ、お客さまのニーズが細分化し、外食産業を取り巻く環境が厳しくなっている現状を踏まえると、どうしてもひとつの商材・強みだけで出店を推し進めるのはリスクが高いと判断しました。そこで社長に就任してから約10年間、「総合飲食カンパニー」を志向し、従来の駅前立地だけでなく郊外立地も視野に入れて業態開発・出店を進めています。たとえば、現在「虎マル」「むてきの寅蔵」の2ブランドで展開している焼肉業態などは、20代~30代の郊外ファミリー層をターゲットとした業態です。一方で、同じ郊外でも「日本そば 夢想庵」は40代~60代が主客層です。我々は福山という一地方都市の企業。お客さまを絞り込むのではなく、どんな世代のお客さまにも喜んで来店いただけるラインナップを揃えることが重要だと捉えています。

――各ブランドでのメニュー開発はどのように行なっていますか?

社内でメニュー開発に関するフローを決めており、「店舗内活動」「共有活動」「決定活動」の3段階で新メニューを開発しています。まず、私から各店舗に「こんなメニューが欲しい」というアイデアを各店舗に提案します。それを受けて、各店舗内でミーティングを行ない、試作、試食を行ないます。この段階で重視するのは、味はもちろんですがお客さまがバリューを感じることができる盛り付けの美しさや、シズル感、また開発に際しては原価意識もしっかりと持つように伝えています。
 次のステップとなる「共有活動」では、グループ各店からメンバーを選出し試食会を開催します。弊社では、業態ごとに3セクションを設置しているのですが、試食会にはなるべく他セクションのスタッフを多く参加させて、客観的にメニューを審査するようにしています。また、社員だけでなくアルバイトの方、時にはモニターとして一般のお客さまにも参加いただいて、さまざまな視点からフィードバックをしています。「共有活動」では商品の売価・原価・レシピも店舗で提案します。商品力ももちろんですが、値ごろ感(価格設定が妥当かどうか)をとくに重視しますね。
 最終段階として、「決定活動」があります。試食会のフィードバックを経て店舗でメニューを再検討するのですが、ブラッシュアップだけではなく、いちからメニュー設計を練り直すこともあります。ここでも再び売価・原価・レシピを提案しますが、販促方法やオペレーションなどより具体的な落とし込みを求めています。あとは本部が最終的なジャッジを行ないます。ゴーサインが出たものについては、差し込みメニューなどを活用して一定期間店舗で販売し、ABC分析に基づいて、グランドメニューへの移行を検討します。

――商品開発の頻度を教えてください。

 とくに期間を設けているわけではなく、通年で断続的に行なっています。そうしないと、季節感やトレンドを取り入れた商品開発にはつながりませんから。平均して毎月5~7回程度の試食会が開催されており、私も可能な限り参加するようにしています。

――おいしい商品を開発・提供するために必要な要素を教えてください。

 とにかく手をかけること。これに尽きると思います。素材に手をかけていかに「お値打ち」「コストパフォーマンス」を追求できるかを重視しています。高級食材を使用した料理ばかりではなく、家庭で使えるような素材を使って、「プロならではの味・仕上がり」を生み出してはじめて、お客さまが価値を感じてくれるはずなんです。私はスタッフに「魚屋さんの商売が我々の見本だよ」とよく言うんです。たとえば1000円で一尾仕入れた魚があるとしましょう。職人がさばいて頭と身に分ければ、頭を300円、身を900円で売れる。さらに、身を3枚におろせばそれぞれを400円で売ることができる。手前をかけていい仕事をすることが、我々の存在の根幹をなす部分だと捉えています。

――店舗調理を大切にされる一方で、セントラルキッチン(CK)やPB商品に関してはいかにお考えでしょうか?

 CKは今後も設ける予定はないですし、PBに関しても導入の必要性を感じていないのが現状ですね。むしろ、ダシやソース、ドレッシングなど他店が味の均質化・効率化を図る部分で、ひと手間をかけることで差別化につなげていければと考えています。たとえば和風居酒屋「夢本陣 なごみ」などではダシをとる専用の寸胴鍋を置いていますし、ポン酢などに関しても店舗で合わせています。また、同じ醤油でも食材に応じて使い分けを行なっていますし、おそらくグループ全店では醤油だけでも7種を仕入れています。唯一PB化しているのは、フランチャイズ(FC)展開している鶏豚焼肉業態「フジヤマドラゴン」のガラベースのスープですね。PBダシによりスープの煮込み時間を2時間に短縮することで、FC参入障壁を下げることを狙いました。直営店ではPB商品の導入はありませんが、今後もFCフォーマットをより強化するために調味料やドレッシングなどをPB化することはありえるかもしれません。

――食材を仕入れる際、こだわっていることや重視している部分はありますか?

 当り前ですが、信頼できる業者さんと取引することですね。現在は野菜に関しては地元の八百屋さんを通じて、魚は福山市内3社の他、福岡、高知、岡山、京都、大阪の計8社の業者さんとお付き合いしています。肉は、「フジヤマドラゴン」で使う鶏肉は鹿児島の朝引き地鶏、豚は地元のブランド豚である神石高原ポークを主に使用しています。また、焼肉業態の牛肉はすべて大阪の㈱萬野屋さんから仕入れています。牛肉に関しては、同社が主催する技術研修会や勉強会にも参加しながら適正な管理やカット方法を学んでいます。焼肉というと素材型業態の代表ですが、仕入れた肉を店舗で手切りし、切り立てをお客さまに提供することで付加価値を訴求しています。

――グループを通じて今後強化したいメニューや採用したいメニューはありますか?

 季節ごとに集客のフックとなる商材があると非常に強いと考えています。冬場のもつ鍋、つけしゃぶ(夢本陣 なごみ)、鶏の丸鍋(フジヤマドラゴン)、浜炊き(魚介のダシで魚介などをおでんのように大鍋で煮込んだメニュー・魚々屋 むてき)、夏場のたこしゃぶ(魚々屋 むてき)に続く、新たな目玉商品を投入したいですね。とくに鍋メニューに関しては、宴会需要を取り込める強みも大きいですから。
 あとはやはり店舗の力を生かした継続的なメニュー開発ですね。この体制を続けることで、リピーターのお客さまにも末永く愛していただける店舗づくりに取り組んでいきたいと考えています。

「魚々屋むてき」の売れ筋上位4品、「夢本陣なごみ」の売れ筋上位5品

DATE

㈲夢笛
広島県福山市霞町1-4-23
TEL:084-973-9988
設立:2002年8月8日
資本金:2000万円
店舗数:国内13店舗(直営10店舗、FC3店舗)、海外2店舗
年商:約5億円
従業員数:正社員約60人
http://www.muteki.jp/

 
 
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