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INTERVIEW

1982年3月号 月刊専門料理 「包丁倶楽部」より

行く道は三つある

久田大吉氏(吉華 店主)
 
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料理人の待遇を改善していく必要がある

 私はもう20年あまりも中国料理にたずさわってきて、現在は料理店を経営していますが、最近ある人から、「料理人は、長い時間働くのに給料が安くてかわいそう」といわれて、ショックを受けました。料理店に就職すれば食うに困ることはないし、料理が覚えられるからっていうことで、雀の涙ほどの給料で新人が働かされていた時代があったわけですが、その頃に比べれば、今はずいぶん待遇もよくなっているし、働く時間も短くなってきました。
 私自身、経営者として料理人の待遇については考えて来たつもりでしたし、自分の修業時代と比べて考えれば、今は楽だなァという気持もあったんです。
 ただ、経営者としては、人件費は低いほうがいいわけです。でも同じ料理人という立場から考えれば、料理人の待遇を少しでもよくしたい、という気持もありますし、私の店は会社組織の料理店ですから、従業員は保険も年金も、一般のサラリーマンと同じに入っています。ですから、外から見た人が、「料理人はかわいそう」だと思ったとしても、それなりの条件は、ととのえてあるわけですから、反論できないわけではないのですが、それでもやはり、もっともっと料理人の待遇を改善していく必要が、あると思いまいました。
 でも、今、料理店の経営ということから、人間にかけられる費用は限られていますし、なかなか難しい問題なんですね。

自分が歩く料理の道を見極めろ

 ですから、料理人になろうとする人に会うと、私は三つの道があるということを必ず話しています。
 まず第一に、小規模な店でいいから、早く独立して一国一城の主になりたい人は、自分がやりたいラーメン店に入ることです。出前持ちからやる覚悟で、ラーメン店に入って独立すればいい。こういう店のほうが給料はずっと高いですから、お金を貯めるのも楽です。ただし、自分の好きな味の店に入ることが大切です。
 第二の道は、技術を覚えることです。給料は安くても、自分の気にいった料理を出す店や、信頼する料理人のいる店に自分から飛びこんでいって働かせてもらう。料理人として生きていこうとしたら、この道を選ぶのがいいと思いますね。
 三つめは、条件のいいところを選ぶ道。 つまり、会社員に近い形で料理をするということです。社会保険や厚生年金などの条件が整った大きな組織の中で、料理を作っていく 、組織の中で生きていく道です。
 料理の世界に入る時点で自分がどの道を歩きたいかということを充分に考えて、選ばないと、後になって困ったことになります。料理店で5年、10年やったからといって簡単に独立できるものではありませんが、ラーメンだけでやるつもりなら、ラーメン店で五年働けば独立も可能ですから……
 料理店で働くようになったら、皿洗い鍋洗いからですが、皿洗いにも技術があります。
 ここから修得していくことです。すべての作業を経験し、マスターしていかないと、だんだんと上に立つようになった時に、下のものの気持ちがつかめなくなりますから、全体を把握するということができないでしょう。
 一口に料理人といっても様々で、その働く条件に関しては、それこそ千差万別です。たしかに待遇を改善していく余地は多いと思いますが、そう簡単に出来ることではありません。そういう中で、自分が歩く料理の道をしっかり見極めて、せいいっぱい歩いて欲しいと思います。