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SERIES

 第4回 吟壌の桃/福島県福島市 加藤修一さんの桃畑にて

桃一族の意外なメンバー

 加藤さんの桃畑は、福島県で生産される桃の半分近くを占める「あかつき」、その次に多い「川中島白桃」、晩生の「ゆうぞら」が中心だが、そのほかにも、見たことのない品種の木があった。「滝の沢ゴールド」。果肉の黄色い桃だ。1992年に品種登録されていて、長野市の滝澤茂子さんという女性が、質然変異として発見した来歴を持っている。

 

加藤「酸味が若干強くていい桃なんですが、作りづらいので、作ってる人はほとんどいません。割れてしまったり、袋をかぶせても、こんなヘンなのができちゃったり……」
三好「あら、でべそがある」
加藤「こんなのが多くて、ハネものだらけなんだけど、僕はこの桃の香りがすごーく好きなんです」
奥田「酸味があるのは、すごくいい。ハネものはうちの店で、“滝の沢ゴールドサラダ”に使いましょう」
加藤「ハネものは、お安くしますよ」
奥田「それならサラダバイキングに使える」
三好「商談成立。パチパチパチ!(拍手)」

 そんな桃の木の下での商談中、奥田シェフのお弟子さんから、思い切り素朴な疑問が飛び出した。
弟子A「桃って何科なんですか?」
加藤「バラ科です。りんごもイチゴも、みんなバラ科」
弟子B「ヘー! バラ科って、すんごい広いんですね」
 すると、加藤さんの奥さんの明美さんが、
明美「あっ、同じバラ科のアーモンドも、別の場所に植えてありますよ」
奥田「ぬわにっ!」
 といきなり振り返る奥田シェフ。
「アーモンド? ぜひぜひそれほしいです。見に行こう、雨が降る前に」
 空は雨雲がどんどん厚くなり、今にも降り出しそうな気配。でも、行かなくちゃ。

三好「福島の桃畑に、なんでまた、アーモンド?」
明美「苗木のカタログを見ていたら、『そばに桃の木があれば、受粉します』って書いてあったんです。うちならできるなあって」
三好「なるほど。桃屋さんだから、アーモンドの実もなるんですね」
 ポツポツと雨が降り始めたころにたどり着いた畑の片隅に、まだ幹の細いアーモンドの苗が植えられていてた。実は青くて楕円形。桃よりもずっと小さい。それを目にするなり……

 

「ガリッ!」
 丸ごと齧るシェフ。何でも口に入れて、その味を確かめないと、気がすまない。
奥田「スペインでは、これを丸ごと絞るんです。ミルクみたいでおいしい。これ、ほしい」
 この日解禁の「あかつき」に、へそつき「滝の沢ゴールド」、そして意外な桃の親戚アーモンドの果実。それらを手にして、一同は雨が降り出した桃畑を後にした。

キッチン乗っ取り、桃料理

奥田「キッチンはどこですか? 失礼しまーす」
明美「えっ? えっ? えええーっ!」

 奥さんが、GOサインを出す前に、加藤家のキッチンへ向かう奥田シェフ。弟子たちが、鶴岡のアル・ケッチャーノから運び込んだ荷物から、緑色のナス、和牛のもも肉、それから加藤さんの桃で作ったコンポート……いろんな食材が出てきた。
 実は、農園を訪れる数日前、「コンポートにして使いたい。まだ固くてもいいから」と奥田シェフからオーダーがあり、加藤さんにお願いして、先にいくつか送っていただいていたのだ。だからコンポートを使ったデザートを披露するのは予想していた。
 だけど、いきなりご自宅のキッチンを乗っ取るなんて聞いてない。加藤夫妻にも伝えていなかった。どうしよう!

 

 あれよあれよといってる間に、シェフの桃料理は始まっていた。弟子はもちろん、同席していた渡辺監督までスタッフと化して、桃の皮をむいている。チーム奥田の桃料理は、もう止まりそうにない。キッチンはすでに満員なので、私は加藤さんに「吟壌桃」のこの3年間の動きについて、改めてお話を伺うことにした。

三好「1年目は直売を中止していましたね。除染して販売を再開した、去年の売れ行きはいかがでしたか?」
加藤「去年の8月9日、『吟壌桃』が全国ネットのニュース番組で紹介されました。たしかに反響は大きかったし、応援のメッセージもいただきましたが、自宅用に買われる個人のお客様が多くて、贈答用は少なかった。以前なら、そこから口コミで広がって、注文も1.5倍には増えていたものですが、なかなかそこから先が、広がらないのです」

 加藤さんは、去年のシーズン前、従業員とともに郡山市で5000枚のチラシのポスティングも行なった。それまでの経験で新聞の折り込みチラシよりポスティングの方が、注文が届く確率は高いと知っていたからだ。「5000枚の5%はいける」と予測していたが、そこから届いた注文は、2件だけだった。
三好「あれだけ頑張って、除染したんだから、売れなくちゃおかしいのに」
加藤「中には応援してくれる人もいるんじゃないか、と。でも、甘かったですね。これはただごとじゃないと思いました」

 これまでと同じ販売戦略では、この閉塞状況を打開できない。
 そこで今年から始めたのが、桃の木のオーナー制度だ。1本の木に、500〜600個つける桃の実から、加藤さんが自ら選んだ最上級品の10個が送られるのがオーナーの特権。なんともぜいたくなシステムだ。名付けて「Bestフルーツ10・オーナー」制度は、1口1本5000円。限定100口は、大盛況。あっという間に満員になった。桃畑の木には、本当にオーナーさんの名札がついていて、木の生育状況は、年2回、会報で報告される。

 このように3年の間に、たしかに「応援したい」という人は増えている。けれどそこからなかなか広がらない。
 そんな話をするうちに、次々と料理ができ上がっていった。

あかつき、生ハム、ヤギのリコッタ

桃と緑長ナスの軽いマリネ

 

桃とトマトのカッペリーニ

漢方和牛と桃のロースト

 

桃のコンポート

「自家製のヤギ乳のリコッタチーズと生ハムを合せまーす」(あかつき、生ハム、ヤギのリコッタ)
「緑色の長なす。こういうのが庄内にはあるんです。生で食べてもアクが少ない」(桃と緑長ナスのマリネ/滝の沢ゴールドを使用)
「このトマト、鶴岡の井上さんのところから取ってきたんですよ」(桃とトマトのカッペリーニ)
「(桃を焼くんですか?と聞かれ)はい。こんがりカラメリゼにして牛肉に合わせます」(和牛と桃のロースト)

 そして、ワインレッドに染まった桃のコンポートは、前もってアル・ケッチァーノに送っていた桃を、シロップ、赤ワイン、ベルモットを加え、静かに煮たもの。
 加藤さんの桃にインスピレーションを得た奥田シェフは、弟子と材料を持参して、一気に「桃のフルコース」を作ってしまった。

 最後にはこんなデザートも(写真)。畑で摘んだアーモンドが、生のまま使用されている。種の中から取り出した真っ白なアーモンドは、杏仁のような後味がほのかに漂う。

 いくつもの皿を前にして、加藤夫妻は「こんな桃の使い方があったのか!」と、びっくり仰天な様子。そして、加藤さんは、
「今までのように、生鮮の桃を売るだけでは、ダメなのかもしれない」と、話し始めた。

 加藤夫妻は、震災以前から、空いたさくらんぼ畑に小さなカフェを設けて、自分たちが育てたフルーツを使ったデザートを販売したいと考えていた。2人は料理やお菓子についても研究熱心。鶴岡の「アル・ケッチャーノ」や、銀座の「ヤマガタ・サンダンデロ」はじめ、東京の話題の店にも足を運んでいた。
 また、加藤さん自身、福島市内の自家焙煎店へ通い、カフェの開業に向けて、コーヒーを学んでいたほど。この日も食後に、自らドリップしたおいしいコーヒーを淹れてくれた。
「仮に震災がなかったとしても、桃の消費量は伸び悩んでいた。生鮮の桃だけではない、“次の一手”を打たなければ」
 震災を経験して、その必要性を強く感じるようになった。

 一方、初めて加藤さんの桃を味わった時、奥田シェフは、
「甘味と酸味、そして香り。とてもバランスがいい」と感じたそうだ。そして、
「これだけ素材がいいのだから、タルト生地を焼いて、上に桃を乗せるだけで、立派なデザートになりますよ。うちの厨房で1週間研修すれば大丈夫。いつでも来て下さい」
「ホントですか?」
 加藤夫妻の顔が、ぱっと明るくなった。

 震災から3度目の夏、今年は天候不順も加わったが、加藤さんは、見事に乗り越え「0ベクレルの桃」を実現させた。
 帰りぎわ、「またコンポート作りたいから、桃を3箱送ってください」と、奥田シェフ。黄色い「滝の沢ゴールド」のサラダも、バイキング形式でお目見えする。
 加藤さんの農園では「あかつき」の収穫は終わったけれど、8月下旬には「川中島白桃」が、秋にはりんごが販売される。
奥田「来年の3月。私は郡山に、福島の食を応援するレストランを出します。福島生まれ、福島育ち、私の店で修業した若者たちが、腕を振るいます。そこでまた一緒に何か、できるといいですね」
加藤夫妻「ぜひ、おねがいします」

 現場の生産者は、今なお見えない不安や、得体の知れない風評と戦っている。ずっとずっと「痛みのわかる、息の長い応援」が、求められている。

 

◎今回訪ねた先は…

加藤修一(かとう・しゅういち)
1961年福島市生まれ。果樹農家の4代目。東京農業大学卒業後、桃、さくらんぼ、りんごを栽培。20年以上化学肥料を使わず、独自の発酵肥料で育てた桃を「吟壌桃」と名付けて販売。2011年12月より、2.6haの果樹園の表土を除去する徹底除染を敢行。土壌も桃も「0Bq/㎏」を取り戻し、栽培と販売を続けている。今年は「あかつき」の収穫は終了、8月25日頃より、「川中島白桃」の収穫・販売を開始。
フルーツファームカトウ
福島県福島市大笹生水口50
電話/024-557-8157
FAX/024-558-3560
http://www.farmkato.jp/
 
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プロフィール

奥田政行(おくだ・まさゆき)
1969年山形県鶴岡市生まれ。2000年「アル・ケッチァーノ」を開業。地元で栽培される食材の持ち味を引き出す独自のスタイルで人気を博す。「食の都庄内」親善大使、スローフード協会国際本部主催「テッラ・マードレ2006」で、世界の料理人1000人に選出される。07年「イル・ケッチァーノ」、09年銀座に「ヤマガタ サンダンデロ」をオープン。東日本大震災の直後から被災地へ赴き、何度も炊き出しを実施。今も継続して支援に取り組む。12年東京スカイツリーにレストラン「ラ・ソラシド」をオープン。スイスダボス会議において「Japan Night 2012」料理監修を務める。「東北から日本を元気に」すべく、奔走中。
http://www.alchecciano.com
三好かやの(みよし・かやの)
1965年宮城県生まれ。食材の世界を中心に、全国を旅するかーちゃんライター。16年前、農家レストランで修業中の奥田氏にばったり邂逅。以来、ことあるごとに食材と人、気候風土の関係性について教示を受ける。震災後は、東北の食材と生産者を訪ね歩いて執筆活動中。「農耕と園藝」(誠文堂新光社)で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家や漁師の「いま」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog